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心臓・血管を中心とした循環器系領域における再生医療を確立するために

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心臓のでき方と関連する遺伝子

1.なぜ幹細胞から心筋細胞を分化させるのか?

心筋細胞は生後その増殖能を失う
成体心筋が持つこの細胞特性のために、虚血性心疾患により失われた心筋細胞は再生することが極めて困難な臓器の一つであると考えられてきた。しかし、最近、心筋梗塞後の心臓においても分裂・増殖する心筋細胞が数%存在することが認められ(1)、また、心筋内幹細胞や骨髄間葉系幹細胞などが心筋や血管に分化して心筋梗塞後の心機能低下を改善するという報告もなされているが(2,3)、幹細胞自体の数が極めて少ないため心筋再生治療に用いるには現実性が乏しい。

一方、多くの組織に分化可能な多能性幹細胞である胚性幹(ES)細胞も、それ自身の心筋分化効率はそれ程高くなく、効率よく心筋分化させることの出来る誘導法も確立されていない。ES細胞由来の心筋を用いて再生治療を行う場合もES作製時の倫理性の問題、患者との免疫拒絶や未分化なES細胞は生体内で奇形腫を形成すること等から治療へのハードルは決して低くはないが、増殖能の極めて低い心筋細胞をES細胞から任意に分化させることが可能であれば、in vitroでそれらを用いて新しい診断法や治療に向けた医薬品開発に大きく道が開ける。ES細胞が心筋細胞への分化過程において機能する遺伝子群は胚発生期の心臓形成と同様な遺伝子シグナル伝達系を用いていることが明らかになっており、胎児における心臓形成の発生生物学的知見は再生医療においても重要なヒントを与えてくれる。
そこで、マウス胎児期の心臓発生を例に取り、心臓のでき方とその形成に関わる遺伝子相互作用を解説したい。

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2.胎児心臓発生期における心筋分化制御遺伝子の発現

(1)心臓原基は7.5日胚の中胚葉からできる

心臓は脊椎動物の胚発生において中胚葉から分化誘導され最初に形成される臓器である。マウス胚E6.0〜7.0dpc(days postcoitum)にかけて後部の原始線条に陥入した外胚葉が中胚葉細胞に分化して臓側内胚葉の内側に沿って胚盤全域に広がり、円盤状の三胚葉胚が形成される(図1左)。心臓を形成する側板中胚葉は胚の前方に移動する過程で、予定心臓領域となる胚最前部に馬蹄形の心臓原基(cardiac crescent)を形成する(図1左点線)。この側板中胚葉から心臓原基への運命決定は隣接する臓側内胚葉から分泌されるBMP-2/4、Wntシグナル、及びFGF-2の作用によると考えられている(4) (図1右)。

(2)心臓原基形成を誘導するシグナル因子

BMP-2/4は臓側内胚葉と胚子外外胚葉から分泌されて予定心臓領域に移動する細胞に作用し、心臓形成に必要なhomeobox転写因子Nkx2.5/Csxの発現を誘導する。BMPが作用した側板中胚葉にはcanonical Wntシグナル系であるWnt3c、及びWnt8cが作用して血球系幹細胞に分化させる働きがあるが、臓側内胚葉からこれらWntシグナルを抑制する因子、Crescent、DKK1が分泌され、BMPが誘導した予定心臓領域での心臓原基への分化を促進する。ニワトリ胚においてもBMPとWntインヒビターの双方が作用する細胞領域が心臓前駆細胞として決定されることが知られている。一方、ES細胞ではnon-canonical Wnt11が心筋分化を誘導することが明らかにされているが(5)、マウスE7.5胚での発現は後部の原始線条で高く、Wnt11欠損マウスでは心臓形成に関わる表現型は示さないことから、心臓形成を誘導する未知のWntが存在することが予想される。また、臓側内胚葉からはFGF-2がBMPと協調的に作用して心臓原基の形成に関与している。

(3)心臓形成を運命付ける転写因子群

心臓原基ではNkx2.5以外に、Zinc finger転写因子GATA-4、MADS box転写因子MEF-2c、SRF (serum response factor)やSRFの転写活性を正に制御するco-factor、Myocardinと逆に負に制御するHop、さらにT-box転写因子Tbx-5、bHLH転写因子dHAND/Hand2、eHAND/Hand1が発現し、これらの転写因子群の相互作用を介して心筋細胞に特異的な構造蛋白質(心筋型アクチン、心室型ミオシン軽鎖等)の発現が誘導される(図2)。

心筋分化の初期に機能する転写因子GATA-4やNkx2.5を欠損しても心臓発生中期の異常しか認められないことから、恐らく、初期分化に関わる未知の遺伝子が存在することが予想される。次回は、その未知遺伝子の探索を行う我々のアプローチについて解説したい。

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文献

(1) Beltrami AP, Urbanek K, Kajstura J, et al: Evidence that human cardiac myocytes divide after myocardial infarction. N Engl J Med. 344(23):1750-1757, 2001.
(2) Beltrami AP, Barlucchi L, Torella D, et al: Adult cardiac stem cells are multipotent and support myocardial regeneration. Cell 114(6):763-776, 2003.
(3) Jiang Y, Jahagirdar BN, Reinhardt RL, et al: Pluripotency of mesenchymal stem cells derived from adult marrow. Nature 418:41-49 2002.
(4) Olson EN, Schneider MD: Sizing up the heart: development redux in disease. Genes Dev. 17:1937-56, 2003.
(5) Pandur P, Lasche M, Eisenberg LM, et al: Wnt-11 activation of a non-canonical Wnt signalling pathway is required for cardiogenesis. Nature 418:636-641, 2002.

【参考リンク】
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